
ある程度の年齢になると、人の名前が出てこない、何度も同じことを聞くなど、物忘れが気になって仕方がないという方も多いかと思います。
ただ人は加齢に伴って、脳の神経細胞は脳全体が萎縮するようになるので、物忘れが増えていくのは、自然な老化現象(年相応の物忘れ)でもあるのですが、一方で加齢になるにつれて認知症の患者さまも増加傾向にあります。
この場合も物忘れが特徴的な症状としてみられるようになりますが、高齢者によくみられる物忘れと認知症の患者さまに現れる物忘れは、それぞれ違いが見受けられます。
具体的に言えば、年相応の物忘れ(良性健忘)では、体験したことの一部を忘れているだけで、例えば朝食に何を食べたかは失念していても朝食を食べたこと自体は覚えており、忘れているという自覚もあります。
また日常生活において何かしら支障をきたしているということがありません。
一方、認知症による物忘れの場合は、体験したこと自体(朝食を食べた 等)を忘れてしまっているほか、本人に忘れているという自覚もありません。
さらに身の回りのことや金銭管理を行うことなどが難しくなり、日常生活に支障をきたしているということもあります。
認知症による物忘れの兆候がみられたとしても、ご本人には気づきにくいこともよく見受けられます。
そのため、同居されるご家族から見て、その傾向があると感じることも少なくありません。
このような場合、まずはご相談という形で、ご本人不在でのご来院も承っておりますので、お気軽にお問合せください。
認知症が疑われる場合の診断方法ですが、まずは患者さまとご家族への問診から始めていきます。
問診後、認知症が疑われると医師が判断すれば、認知機能検査(記憶力や判断力等を測定)として、HDS-RやMMSEなどが行なわれます。
その結果、異常ありとなれば、画像検査(CT、MRI、SPECT、PET等)で、脳の病気や脳の萎縮、脳内の出血の有無などを調べるほか、血液検査で別の病気が原因でないかを確認するなどして、総合的に判断していきます。
これまで正常に発達していた脳の知的機能(記憶、判断、計画を立てる 等)が、脳内で起きたとされる器質的障害によって、持続的に低下してしまい、日常生活や社会生活に支障をきたしている状態にあることを認知症といいます。
発症の原因は、ひとつとは限りませんが、大きく2つに分類されます。
ひとつは、変性性認知症と呼ばれるもので、脳そのものが変性してしまうことで起きる認知症のことをいいます。
この場合、多くは特殊なたんぱく質が脳の神経細胞に蓄積していくのですが、これが神経細胞を壊すなどして減少させ、脳を萎縮させるなどして、認知症を発症させるようになります。
このタイプの代表的な認知症としては、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症があります。
もう一つのタイプは、血管性認知症と呼ばれるもので、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)が引き金となって発症する認知症のことをいいます。
なお認知症を引き起こす病気に関しては、いくつもありますが、先に述べた4つの認知症(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症)で全体の約9割を占めることから四大認知症とも呼ばれています。
それぞれの特徴については、次の通りです。
認知症の患者さまの中で最も多いタイプであり、全体の6割程度を占めるとされ、女性の患者さまが多いのも特徴です(男女比は約1:2)。
脳内で発生したアミロイドβ等の異常なたんぱく質が脳の神経細胞に蓄積することで、同細胞が壊れて多量に減少、これが脳萎縮を引き起こすことで発症する認知症です。
なお異常なたんぱく質が蓄積する原因は完全には判明しておりません。
発症初期は、海馬や側頭葉の萎縮に始まり、記憶障害(物忘れ)、見当識障害、物取られ妄想などの症状がみられます。
また頭頂葉の萎縮が起きるようになれば、遂行機能障害をはじめ、失行、失認、失語などもみられ、さらに病状が進んでいけば脳全体が萎縮するようになります。
根治させる治療法は現時点では確立しておりません。
認知症の進行を遅らせるための薬物療法として、神経伝達物質を増やす効果のあるコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)やNMDA受容体の働きを抑制する効果があるNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)が用いられます。
また薬物療法だけでなく、非薬物療法も有効で、運動療法や回想法、音楽療法などのリハビリテーションも認知機能やQoL(生活の質)の向上につながっていきます。
レビー小体と呼ばれる異常なたんぱく質が脳の広範囲に蓄積していき、それによって脳の神経細胞を壊すことで、認知症の症状が現れるほか、パーキンソン症候群の症状もみられるようになります。
よくみられる症状は、幻視(そこにいない人が本人には見えている)や妄想、レム睡眠行動障害(レム睡眠中にみられる異常行動:大声で寝言を言う、眠った状態で動き回っている 等)のほか、手足が震える、動きが遅くなる、無表情、筋肉が硬くなるなどのパーキンソン症候群で現れる症状などです。
なお認知機能については、良い状態と悪い状態が日や時間帯によって変動するという特徴もあります。
同疾患も根治させる治療法はなく、アルツハイマー型認知症とパーキンソン病の治療を組み合わせて行います。
認知機能の障害に対しては、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)を使用します。
またパーキンソン症候群の症状に対してはレポドバが用いられます。
このほか、レム睡眠行動障害に抗てんかん薬を使うこともあります。
初老期とされる40~60代の患者さまが多く、前頭葉や側頭葉と呼ばれる脳の前方部分の神経細胞が減少し、これらで萎縮がみられることで様々な認知症の症状がみられるのが前頭側頭型認知症です。
なお発症には、タウタンパク質やTDP-43タンパク質等の神経細胞への異常蓄積が関係しているのではないかと言われています。
主な症状ですが、記憶障害がみられることは少ないとされ、感情の抑制が効かない、異常行動(浪費、過食、徘徊、窃盗 等)、人格の変化(穏やかな人が怒りっぽくなる、無関心 等)、常同行動などが現れ、患者さまご自身が病気に罹患しているという意識はありません。
根本的な治療は確立されておらず、症状を抑制させるために行う対症療法が中心となります。
例えば、異常行動を抑えるために抗うつ薬(SSRI)を使用するなどしていきます。
脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)が引き金となって発症する認知症のことを血管性認知症といいます。
全認知症患者さまの2割程度を占めるとされ、アルツハイマー型に次いで患者数の多い認知症です。
同タイプは、動脈硬化を促進させたことによる血管狭窄や血管閉塞によって引き起こされますが、(動脈硬化促進の原因の)大半は、生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症 等)の発症や喫煙によるものです。
また血管性認知症では、血管障害が起きている部位においてのみ機能低下がみられるので、判断力は低下したとしても、遂行機能や記銘力は正常であったりするなど、まだら認知症がみられます。
さらに感情が不安定になりやすく、病状が進行すると大した問題ではないと思うことで泣き笑いするなどの情動失禁が現れるようにもなります。
認知症以外の症状としては、歩きにくい、抑うつの症状などがみられるということもあります。
このほか、脳卒中は再発するリスクが高く、繰り返すようなことがあれば、認知機能をさらに悪化させてしまうことにつながります。
治療の目的は、脳卒中の再発を防ぎ、認知症をこれ以上悪化させないことになります。
つまり、これ以上は動脈硬化を促進させないということです。
具体的には、喫煙者は禁煙を実践します。
また生活習慣病に罹患している患者さまは、その治療を怠らないようにします。
さらに脳梗塞を予防するために血液をサラサラにしてくれる効果があるとされる抗血小板薬などを使用することもあります。